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54.リーダーシップについて考える(5)

今回は、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)で教鞭をとる、企業変革、リーダーシップの権威、ジョン・P・コッター教授のリーダーシップ論から「ボス・マネジメント」を取り上げます。
上司をマネジメントする。どういうことでしょうか?

まず、コッター教授について、少し補足説明をします。『幸之助論』という著書があり、HBS松下幸之助記念講座名誉教授という肩書があります。また、企業変革のためのリーダーシップ実現をサポートする「コッター・インターナショナル」を起こしました。
数々の論文以外に、寓話を用いて最新の理論を理解しやすく伝える手法でも定評があります。
氷山が縮小する中でコロニーをどうやって維持していくかに取り組むペンギンの話、外敵に脅かされて存続の危機を救うために挑戦するミーアキャットの話などがあります。社内勉強会(読書会)で読んでディスカッションするのもいいかと思います。(ともに翻訳あり)
        

ボス・マネジメント

では、ボス・マネジメントの話に入ります。
1980年にバーバードビジネスレビューに掲載された論文(*1)(ジョン・J・ガバロとの共著)をベースにしていきます。冒頭、以下のように始まります。

「ボス・マネジメント」という言葉は、多くの人にとって、耳慣れない、あるいは怪訝に聞こえるのではないか。組織では、伝統的に上意下達が重んじられてきたため、なぜ下から上への関係を管理する必要があるのか。
政治上の駆け引きやゴマスリのことを申し上げているのではない。むしろ、あなた自身、あなたの上司、そして会社にとって最も望ましい結果となるように、意識して上司と一緒に働くプロセスとして、この言葉を使っている。


この論文のもとになった研究では、
(1)できる管理職は、部下との関係だけでなく、上司との関係にも時間と労力を割いている。

(2)上司とうまくやることは、マネジメントの重要な一部であるにもかかわらず、有能で上昇志向の強い人ですら、これをなおざりにしている。

(3)部下、製品、市場、技術については積極的で上手に管理しているが、上司にはほとんど受け身になっているマネージャーがいる。

これらが、必ずと言ってよいほど、本人のみならず会社に悪影響を及ぼすといっています。
ここまで読んで、「言わんとしていることはわかります」「でも、過去の(あるいは現在進行形の)経験からしてどうかな~」というのが素直な感想ではないでしょうか。

上司と反りが合わない、性格の不一致だからといって片づけていい問題ではありません。気の合う上司、仲間だけで構成される組織は、一見、楽しく活発そうでしょうが、変化に弱く新しい価値を生み出していくようなエネルギーはありません。

組織全体の弱みをなくするために、それぞれの強みを組み合わせることで、変化を機会としてとらえ成長しなければなりません。
まさに、最近の流行りのフレーズ「ダイバーシティがイノベーションを生む」です。

そのためには、「Ⅰ:上司を理解する」「Ⅱ:自分自身を理解する」「Ⅲ:上司との関係を構築する」ことが必要です。
 

Ⅰ:上司を理解する

上司の置かれている環境を理解することです。

・上司の組織上の目標、個人的な目標は何か
・上司へのプレッシャー:その上司の上司、他部門の上位者からのプレッシャーはどのようなものか
・上司の長所、盲点はどこか
・どのようなワークスタイルを好むか
・どのようにして情報を入手しているか(例えばリポート、正式な会議、電話)
・対立を増長させるのか、それとも極力避けたがるのか

以上の点をしっかり観察し、できれば話し合うことです。
このような情報を持っていなければ、上司に対処するにもあてずっぽうになり、無用な感情的対立や誤解、問題発生は避けられません。
 

Ⅱ:自分自身を理解する

上司は、関係の一方にすぎない。あなたは、そのもう片方です。自分自身は(上司よりも)自ら管理できる存在であるはずです。

・仕事のスタイルを知る
基本的な人格(資質)はあなたも上司も変えることはできません。上司と仕事をする上で、何か助けになるのか、妨げになるのかを知ることで仕事上の関係を実りあるものにすることが可能です。

・上司への依存の傾向を知る
組織である以上、部下の行動や選択肢が上司の判断によって制約を受けることは避けられません。フラストレーションや怒りを感じることがあるでしょう。
このような時の反応に「反依存型」と「過剰依存型」があります。両極端に該当するようでは組織で仕事をすることは難しいでしょう。しかし誰しも傾向としてどちらの型なのかを知っておくことです。

⇒「反依存型」
上司の権威にムッとして、その決定に逆らう。無意識のうちに上司に「戦いのための戦い」を挑む。
制約を課されると、激しく抵抗し、直情的になる。
上司を、行く手を阻むもの、避けて通るべき障害、やり過ごすべき障害と捉える。

⇒「過剰依存型」
上司がまずい意思決定を下した時にも、ぐっと怒りをこらえ、従順に振る舞う。
別の視点からのアイデアや反論が求められていても、また上司が再考をするに足る情報を持っていても、上司に追従する。
上司のことを、自分のキャリアに責任を負っており、必要な時にはいつでも自分を導き、上昇志向の強い同僚から守ってくれる庇護者のように考える。

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Ⅲ:上司との関係を構築する

良好な関係を築くには、互いの強みを活かし、互いの弱みを補うことが欠かせない。

・ワークスタイルの共存
上司の情報の受け取り方(*2)、意思決定のスタイルを理解する。

・相互期待
上司は、上司の組織上の、個人の目標を達成するために、部下であるあなたに何を期待しているのかを知るための努力をすることです。
また、部下であるあなたは、自分の目標達成のために上司に何を期待しているのかを伝えることです。

・情報の流れ
優秀な部下は、上司が必要としている情報量を過小評価しているのではないかと考え、上司のスタイルに合った方法で十分な情報を提供できるように努める。
しかしながら、上司という人種は「良いニュースだけ聞きたい」というシグナルを発していることがよくある。問題が起こったと聞けば、たいてい言葉に出さないものの、とても不機嫌になる。もっと悪いケースでは、面倒を持ち込まない部下を高く評価することすらある。

部下としては、良い、悪いにかかわらず潜在的な問題を見つけたら、すぐさま報告すべきであり、こういった姿勢を貫くことで、問題が顕在化してしまった後の処理に時間と労力を割くことを防止できる。

・信頼性と誠実さ
上司の視点からは、頼りにならない部下、仕事がいい加減な部下ほど困ったものはない。将来重大問題に発展しそうな案件を、当面、些細なことに見せかけるのは簡単である。
しかしこういったいい加減さは致命的である。信頼を失ってしまう。そうなると上司は部下の仕事をすべてチェックせざるを得なくなり、権限移譲ができなくなる。

・上司の時間と資源の使い方
上司にも部下に割ける時間、エネルギー、影響力には限りがある。なんでも報告して相談して指示を仰ぐのは、上司の資源を消耗させていることである。
ポイントポイントで状況報告をしておくこと。
No Surpriseの原則を意識すること。
自身で処理できなくなって初めて上司に報告するのは絶対に避けるべき。

有能な部下たちは、自分の業績への責任を負うのは自分自身であると考えている。よって自分が依存している人たち(上司)と良好な関係を築き、維持管理しなけれなばらないことを理解している。

(*1) ”Managing Your Boss” HBR, January-February 1980
「上司をうまく管理し仕事の効率を高める法」『ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス』1980 06
(*2)上司はどのように情報を受け取るのを好むのか、それに応じて、部下は自分のスタイルを調整できる。ピーター・F・ドラッカーは、上司を「聞くタイプ」と「読むタイプ」に分けている。読んで理解できるように報告書で情報をもらうのを好むタイプもいれば、質問ができるように直接報告させる上司もいる。
詳しくは『経営者の条件』(第4章:人の強みを活かす P129-)を参照ください。

最後に、ドラッカーの『経営者の条件』から引用します。
(成果をあげるためには、上司の強みを生かさなければならない)これは世間の常識である。現実は企業ドラマとは違う。部下が無能な上司を倒し、乗り越えて地位を得るなどということは起こらない。上司が昇進できなければ、部下はその上司の後ろで立ち往生するだけである。

たとえ上司が無能や失敗のために更迭されても、有能な次席があとを継ぐことはない。外から来る者があとを継ぐ。そのうえその新しい上司は息のかかった有能な若者たちを連れてくる。
したがって優秀な上司、昇進の早い上司をもつことほど部下にとって助けとなるものはない。
(p128)

もう一つ、ドラッカーの『明日を支配するもの』1999から引用します。
「関係にかかわる責任」
上司とは、肩書を越える存在である。それぞれの仕方で仕事をする権利をもつ一個の人間である。その上司を観察し、仕事の仕方を理解し、上司が成果をあげられるようにすることは、部下たる者の責務である。

『明日を支配するもの』p220

ボスをマネジメントして、成果をあげていこうとしているあなた自身も部下をもつ上司としての立場でもあるでしょう。
いい加減な上司ほどやる気を失わせるものはない。人は上司が良い仕事をし、仕事を生産的なものにすることができるようにしてくれることを期待し、要求する。働く者は、真剣で有能な上司をもつ権利を有する。

『マネジメント(上)』p340
 

Topics ドラッカー:私の人生を変えた7つの体験(4)

第5番目は、「新しい仕事が要求するものを考える―シニアパートナーの教訓」です。

前回の最後で紹介した通り、ドラッカーは、ナチスからのがれてイギリスに渡ります。1933年のことです。1年ほど保険会社で証券アナリストをしてから、投資銀行フリードバーグ商会に就職します。そこで3人のシニアパートナーの補佐役を勤めることになります。
ある日、最年長のシニアパートナー(創設者)に呼ばれます。
「君が入社してきたときはあまり評価していなかったし、今もそれは変わらない。君は、思っていたよりもはるかに駄目だ。あきれるほどだ」
(他の)2人のシニアパートナーに毎日のように褒められていた私は、あっけにとられた。

その人はこう言った。「保険会社の証券アナリストとしてよくやっていたことは聞いている。しかし、証券アナリストをやりたいのなら、そのまま保険会社にいればよかったではないか。今君は、補佐役だ。ところが相も変わらずやっているのは証券アナリストの仕事だ。今の仕事で成果をあげるには、いったい何をやらなければならないと思っているのか」

私は相当頭に血が上った。しかしその人のいうことが正しいことは認めざるをえなかった。そこで私は、仕事の内容も、仕事の仕方も、すっかり変えた。  

このとき以来、私は新しい仕事を始めるたびに、「新しい仕事で成果をあげるには何をしなければならないか」を自問している。もちろんその答えは、そのたびに違ったものになっている。
 

実際の私たちの仕事場でも、ジョブローテーション、配置転換、転勤、昇進、さらには転職など様々なシーンがあります。新しい任務に就いても、前の任務で成功していたことをやり続けてしまうのです。  

よく言われる例が、営業パーソンのケースです。数年にわたり部署内でトップの営業成績をあげ、チームのリーダーに昇進したものの、営業成績をあげることとチームマネジメントとの板挟みでどちらも中途半端で役に立たない仕事しかできなくなってしまう、というものです。
昇進した自分に求められていることは何かを考えることです。

あなた自身が今後もトップの成績を上げ続けることでしょうか?チーム全体の営業成績をキープしたうえでさらに伸ばすためには、後輩の指導・教育が求められているはずです。
これまでトップの成績を上げてきたノウハウを言語化してメンバーのスキルを伸ばすことでしょう。気付いていてもつい数字がほしくて自分で動いてしまうのです。
ここに昇進人事の難しさがあります。  

コンサルタントの仕事を始めてから50年以上経つ。いろいろな国のいろいろな組織のために働いてきた。そして、あらゆる組織において、人材の最大の浪費は昇進人事の失敗であることを目にしてきた。昇進し、新しい仕事をまかされた人たちのうち、本当に成功する人はあまりいない。無残な失敗例も多い。
もちろんいちばん多いのは、期待したほどではなかったという例である。その場合、昇進した人たちは、ただの凡人になっている。昇進人事の成功は本当に少ない。
 

昇進した者が、自分で新しい仕事が求めるものを自分で発見するのが一番いいのです。しかしながらそうできる人は少ないのです。
人事部や上司は、誰かが言ってあげなければわからないことだという前提で人事を行わなければならないのです。一度このことを知れば、昇進(配転など)した者は決して忘れることなく、その後は次の新しい仕事でも成功できるようになるのです。  

新しい任務で成功する上で必要なことは、卓越した知識や卓越した才能ではない。
新しい任務が要求するもの、新しい挑戦、仕事、課題において重要なことに集中することである。


次回は、6番目「書きとめておく―イエズス会とカルバン派の教訓」です。
大庭純一

Jerry O. (大庭 純一)
1956年 北海道室蘭市生まれ、小樽商科大学卒業。静岡県掛川市在住。
ドラッカー学会会員。フリーランスで、P.F.ドラッカーの著作による読書会、勉強会を主催。
会社員として、国内大手製造業、外資系製造業、IT(ソフトウェア開発)業に勤務。
職種は、一貫して人事、総務、経理などの管理部門に携わる。社内全体を見通す視点、実働部隊を支える視点で、組織が成果をあげるための貢献を考えて行動をした。
・ISO9000s(品質)ISO14000s(環境)ISO27000s(情報セキュリティー)に関しては、構築、導入、運用、内部監査を担当。
・採用は新卒、キャリア、海外でのエンジニアのリクルートを担当。面接を重視する採用と入社後のフォローアップで、早期離職者を出さない職場環境を実現。
・グローバル化・ダイバーシティに関しては、海外エンジニアの現地からの直接採用、日本語教育をおこなう。日本人社員に対しては、英語教育を行う。
・社内教育では、語学教育のみならず社内コミュニケーションの活性化、ドラッカーを中心としたセルフマネジメント、組織マネジメント、事業マネジメントを指導。

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