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55.リーダーシップについて考える(6)

オーセンティック・リーダーシップ

リーダーに必要な資質であるリーダーシップは、学び取らなければならないものであり、また学び取れるものである。というドラッカー教授の言葉から、いろいろなリーダーシップの形を見てきました。

今回は、リーダーシップ論の変遷を大掴みで見た後、最近よく聞かれるようになってきた「オーセンティック・リーダーシップ」なるものについて、ハーバード・ビジネス・レビューに発表された、いくつかの論文をもとに解説します。
そして今回で、「リーダーシップについて考える」はいったん終了します。

しかし、管理部門で働いている読者の皆さんに、またマネジャーとして活躍されている皆さんにお話ししていく話題の中には、今後も様々な形でリーダー像やリーダーシップの形の話が出てくるでしょう。
 

(1)リーダーシップ論の変遷

歴史が始まって以来、すなわち人が何人か集まると、その中からリーダーシップを発揮するリーダーが生まれてきました。そして集団が大きくなるにつれ、集団を統率するものが現れます。その者は、生まれつき統率者としての資質を持ったもの、選ばれしものであったのです。部族を統一し、国家を統一するといった事業をなすために、強力なパワーを集中させ、意思決定はトップダウン、上意下達で物事が進むスタイルでした。
カリスマ型のリーダーです。

産業社会になった後も、親方であったり創業者であったり、こういった人たちは上記のリーダーシップで事をなしてきました。その後、先天的な資質ではなく環境や置かれた状況・立場によっても学習をすることでリーダーになることができるという考え方が生まれました。

今から50年前、1969年にドラッカーの『断絶の時代』が出版されました。
「あらゆるものが、あたかも群発地震のように動き出した。地底の奥深くでプレートの移動が起こっているに違いない。1965年頃に始まったこの転換期は、2025年頃まで続く」
歴史は数百年に一度大きな転換を迎えます。
ドラッカーの見た断絶の一つが、知識の位置づけが変わるということ。つまり知識が最大の財産になるということです。(他に3つ、起業家の時代、グローバル化の時代、多元化の時代の到来を挙げています)

リーダーシップも「権力(power)の構造」から「知識による統治の構造」へと変化しました。情報を集約することによって、そこから知識を生み出してくのです。
その中で、トップダウンではなく、情報の一番近くにいるメンバーを起点とした「ボトムアップ型のリーダーシップ」が誕生します。
さらに支援型の「サーバント・リーダーシップ」第53回/リーダーシップについて考える(第4回)参照)、メンバーの主体性を引き出す「フォロワーシップ」、状況を見極めたうえで自分のリーダーシップのスタイルをきめ、コミュニケーションを重視する「シチュエーショナル・リーダーシップ」などが登場しました。
 
書籍『ティール組織』*1で話題になった「ホラクラシー」があります。階層や上司・部下といった上下関係を取り払った業務スタイルが紹介されています。

*1『ティール組織』フレデリック・ラルー著(英治出版2018.01)

(2)オーセンティック・リーダーシップ

オーセンティック(authentic)とは、辞書的には「本物の(genuine)、真正の、確実な(reliable)」という意味です。《ジーニアス英和大辞典》

ここでは、「自分らしさ」といった意味で使われています。さらに踏み込んで「弱さを隠さない」という使われ方もしています。
自分の弱みを表に出すことを恐れないということです。自分の知らない情報やスキルについて、率直に部下に尋ねることができ、謙虚で気取らない態度で仕事をする。
それにより、部下は気が楽になり率直に自分の意見を表明でき、それらを尊重してくれることを理解しています。  

オーセンティック、すなわち「自分らしさ」を貫くリーダーは、自らの目標に情熱的に取り組み、自らの価値観をぶれることなく実践し、知識だけでなく感情の面からも人々を引っ張っていく。実りある人間関係を長期的に築き、自らを律することで結果を出す。それもこれも、自分自身をよく知っているからである。
ビル・ジョージ『ミッション・リーダーシップ』2004.08(生産性出版)  

ひと昔前には、誰もがジャック・ウェルチのようになりたがった。しかし、偉大なリーダーを真似しても限界があるということをビル・ジョージは言っています。  

GEのジャック・ウェルチは、1位2位戦略で知られるように、手を広げすぎていた事業分野の中から、世界で競争しても戦える事業のみに絞り、その他の多くを外部のパートナーとの共同事業にしたり、売却したりすることで、体質強化と成長を実現させました。
半面、これらのリストラによる大量解雇を行ったことで「ニュートロン・ジャック」などと言われました。確かに偉大なリーダーの一人なのでしょうが、光の当たる部分が輝いている分、陰の部分も深いものでした。
これからの時代には、こういった価値観は受け入れられなくなってくるでしょう。  

しかし、ジャック・ウェルチは、あるインタビューでこう答えています。
「あなたをしてリーダーとして長期にわたり業績を上げさせたものは何か?」「セルフ・アウェアネスだ」
ウェルチの言うセルフ・アウェアネス(自己認識力)が具体的にどのようなものを指すのかは計り知れませんが、引退して後任のジェフリー・イメルトがさらにGEを改革し発展させていることからして、人を育てる(後継者選び)には成功したといえるでしょう。  

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セルフ・アウェアネスこそがオーセンティック・リーダーシップにおいて最重要

人は、どうしても目に見える成功、収入・名声・権力・地位などを求めて行動しますが、長続きするものではありません。年齢を重ねるにつれて、今の自分に欠けているものを意識し、本当になりたい自分になれていないことに気づくものです。
本当の自分を知るためには、過去の行動を振り返り、自身で評価・検証することが必要です。けっして楽しい作業ではないでしょう。怒りや後悔といったネガティブな感情と向き合うことになるかもしれません。

しかし、こういった行動から自分の弱さを認めつつも、より人間的な良いリーダーが生まれるのです。
自己認識の次のステップは、価値観の体現です。
その人の信念から生まれてくるのですが、本当の価値観は、プレッシャーのかかる状況に追い詰められた時に初めて分かるものでもあります。自分のキャリアや成功を賭けた判断を迫られる時、守るべきものと犠牲にせざるを得ないものを決める時などです。

リーダーシップの行動原理とは、自身の価値観を行動によって示すことなのです。言動と行動における一貫性、あらゆる関係者に対する誠実性、チームメンバーへの人としての思いやりといったものを欠くことはできません。
ドラッカーの言う、真摯さ(integrity)とほとんど重なると私は思います。

人間の特徴の一つとして、「ありのままの自分を認めてもらいたい」という欲求があります。
リーダーが「自分らしさ」を貫き、一方で自身の弱さを認め、他人の弱さを認められることができるスタイルであるならば、メンバーは自分ならではのモノの見方や強みに気づき、それを仕事に活かすことができるようになり、意欲が高まります。
そうなると、仕事は単なる目的達成の手段ではなくなり、チームの能力を最大限活かすことができるようになってきます。

ここで注意点を挙げておきます。「自分らしく」取り組むうえでの感情の扱いです。  

怒りや悲しみといった感情が起きることは自然なことです。しかし、他者を怒鳴りつけたり、あたり憚らず泣いたりするという行為は不適切でしょう。
「自分らしく」ということは、感情のおもむくままに行動するということとは違うということです。  

まとめです。オーセンチシティーとは、
(1)自己に忠実であること
(2)自分の気持ちと言動をしっかり一致させること
(3)自分の価値観に基づいて選択すること

です。

リーダーシップを発揮して課題に挑戦していくときの状況は様々です。トップダウンで引っ張っていかなければならない緊急かつ危機的な状況もあります。また、安定している現状から抜け出すためにイノベーティブなアイデアを出して形にしていかなければならない状況では、チームメンバー積極的な参加による創発を促さなければなりません。
しかし、どの様な状況であれ、リーダーが「自分らしく」振る舞い、メンバーも個性を殺すことなくチームに貢献できるならば、目標に向かって成果が出るはずです。

最近、「セルフ・アウェアネス」に関する書籍が次々と発売されています。今後、注目のキーワードとなってくるでしょう。3冊ほどお奨めの本を紹介します。
1.insight(インサイト)―いまの自分を正しく知り、仕事と人生を劇的に変える自己認識の力
ターシャ・ユーリック(英治出版2019.06)
2.ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式
山口周(ダイヤモンド社2019.07)
3.ハーバード・ビジネス・レビュー[EIシリーズ] セルフ・アウェアネス
(ダイヤモンド社2019.08)

次回からは、「チーム」について考えてみたいと思います。
 

Topics:ドラッカー:私の人生を変えた7つの体験(6)

第6番目は、「書きとめておく―イエズス会とカルバン派の教訓」です。

前回は、イギリス・ロンドンのフリードバーグ商会での経験とそこからの学びについてでした。ロンドンでは、急な雨降りにあったときに偶然立ち寄った画廊で、日本画との出会いがありました。ずっと後になって、たびたび日本に招かれて講演や経営者へのコンサルティングをする傍ら、日本画(鎌倉、室町、桃山、江戸の水墨画や禅画)をコレクションに加えていきました。
「山荘コレクション」ともよばれ、何点かは部屋に飾られていました。「正気を取り戻し、世界への視野を正すために、私は日本画を見る」と言っていたそうです。最近、これらのコレクション全点を日本の企業が買い戻し、千葉市立美術館に所蔵されました。里帰りしたわけです。  
1937年にアメリカに渡ります。1945年頃、新しい勉強のテーマとして近世初期(15c-16c)のヨーロッパを取り上げました。当時のヨーロッパで急速に力を持つようになった2つの社会的機関に注目します。
一つが、南ヨーロッパンを中心とするカトリックのイエズス会(1534年創設)もう一つが、北ヨーロッパを中心とするプロテスタント社会におけるカルバン派(1541年創設)です。  

イエズス会の修道士やカルバン派の牧師は、何か重要な決定をする際に、その期待する結果を書きとめておかなければならないことになっていた。一定期間の後、例えば9か月後、実際の結果とその期待を見比べなければならなかった。

そのおかげで、「自分は何がよく行えるか、何が強みか」を知ることができた。また、「何を学ばなければならないか、どの様な癖を直さなければならないか」、そして「どのような能力が欠けているか、何がよくできているか」を知ることができた。  

私自身、この方法を50年以上続けている。この方法は、「強みは何か」という人が自らについて知ることのできるもっとも重要なことを明らかにしてくれる。「何について改善する必要あるか」「いかなる改善が必要か」を明らかにしてくれる。さらには、「自分ができないこと、したがって行おうとしてはならないこと」も教えてくれる。


ドラッカーの言う「継続学習」の要がここにあります。
・自らの強みが何か 
・その強みをいかにしてさらに強化するか 
・自分には何ができないか
まさに、これらを知ることです。

次回は、最後の第7番目「何によって憶えられたいか―シュンペーターの教訓」です。
大庭純一

Jerry O. (大庭 純一)
1956年 北海道室蘭市生まれ、小樽商科大学卒業。静岡県掛川市在住。
ドラッカー学会会員。フリーランスで、P.F.ドラッカーの著作による読書会、勉強会を主催。
会社員として、国内大手製造業、外資系製造業、IT(ソフトウェア開発)業に勤務。
職種は、一貫して人事、総務、経理などの管理部門に携わる。社内全体を見通す視点、実働部隊を支える視点で、組織が成果をあげるための貢献を考えて行動をした。
・ISO9000s(品質)ISO14000s(環境)ISO27000s(情報セキュリティー)に関しては、構築、導入、運用、内部監査を担当。
・採用は新卒、キャリア、海外でのエンジニアのリクルートを担当。面接を重視する採用と入社後のフォローアップで、早期離職者を出さない職場環境を実現。
・グローバル化・ダイバーシティに関しては、海外エンジニアの現地からの直接採用、日本語教育をおこなう。日本人社員に対しては、英語教育を行う。
・社内教育では、語学教育のみならず社内コミュニケーションの活性化、ドラッカーを中心としたセルフマネジメント、組織マネジメント、事業マネジメントを指導。

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