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65.人事部門のこれから(最終回)

諸般の事情により今回が最終回です。
前回(第64回)の冒頭に、「今回のコロナ禍とは、一つの現象にすぎない」と書きました。今回のコロナ禍が騒がれる前には、バブル崩壊、リーマンショックや東日本大震災などがあり、失われた20年、30年などと言われていました。つまり、幾度となく「かつて経験したことのない最大の危機」は繰り返し起こってきたのです。
今回のコロナ禍がいつ終息し、経済が回復に転じるかはいまだ見えてきません。そして将来、どのような世界になるのかは不明です。でも、かならずや大きな災害は繰り返します。記憶の生々しいうちに、外部環境の変化に対して何をすべきかを明確にし、目標を立てて対策をすることです。備えをすることです。

最近、AIの発達、ビジネスへの応用の急激な進展により、仕事がコンピュータにとってかわられる、「こんな職種が無くなる!」といったことがあちこちで語られています。それに呼応するかのように「教養のための…」といった出版物や記事を多く目にします。
コンピュータに置き換えることのできない「創造性」を発揮するために幅広い知性・教養を身につける必要を説いているのでしょう。その中に歴史(特に世界史)を学び直そう、といったものを多く見かけます。
ただ、中学・高校で習った歴史の教科書を読み返すだけでは、情報をインプットするだけに終わってしまいます。今の生活、仕事に結びつけて、インプットした(学び直した)情報を知識や知恵に変換しなければなりません。目の前で起こっていることを、敏感に察知するとともに、時間的に長いスパンで起こっていることの意味を考えることこそ歴史を学ぶ意味なのです。

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この連載では、ドラッカーから多くの考え方を援用してきました。今回も、ドラッカーの著作から歴史的に世の中がどう変化するのかを、長期的視点から見ていきます。そこからこれからの人事(管理部門)の役割を考えます。

「歴史の境界」平坦な大地にも、高みに上り、谷へと下る峠がある。そのほとんどは、たんなる地形の変化であって、気候や言葉や生活様式が変わることはない。しかし、中にはそうでない峠もある。本当の境界(分水嶺)がある。特に高くなるわけでも、目をひくわけでもない。
たとえば、ブレンネル峠はアルプスのなかでも、もっとも低く、もっとも穏やかである。だがそれは、古より、地中海世界と北欧文化を分けてきた。ニューヨーク市の西70マイルにあるデラウェア峠は“峠”でさえない。だがそれは、東部海岸地帯と中部アメリカを分けている。

そして歴史にも境界がある。その時点では、気づかれることもない。だがひとたび越えてしまえば、社会的、政治的な風景が変わり、気候が変わる。そして言葉も変わる。
「新しい現実」が始まる。
1965年から73年の間のどこかで、世界はそのような境界を越え、新しい次元の世紀に入った。

『新しい現実』1989年

西洋の歴史では、数百年に一度際立った転換が起こる。世界は歴史の境界を越える。社会は数十年かけて新しい時代に備える。世界観を変え、価値観を変える。社会構造を変え、政治構造を変える。技術と芸術を変える、機関を変える。やがて50年後には新しい世界が生まれる。
(中略)
われわれが転換期にあることは明らかである。もしこれまでの歴史どおりに動くならば、この転換は2010年ないし2020年まで続く。しかもこの転換は、すでに政界の社会、政治、経済、倫理の様相を大きく変えた。1990年に生まれたものが成人に達する頃には、父母の生まれた世界は想像すらできないものになっているはずである。

『ポスト資本主義社会』1993年

紹介した2作に先立ち、世界的なベストセラーになった『断絶の時代』1969年において、手動のトロッコはゲリラ戦で活躍する。後続の列車のためにレールの下の地雷を見つける。
本書はそのトロッコである。未来はゲリラ戦である。予期せぬことが走行を脱線させる。本書は脱線させないための警告を発する。まだよくは見えないいくつもの断絶が、経済と政治と社会を変えつつあることをいち早く知らせる。それらの断絶が世の中を根本的に変えるとは言いきれない。

しかしこれらを考えるうえで大きな意味を持つことは間違いない。それらの断絶は、すでに起こったことと、これから起こることの相乗作用となる。我々の未来を形づくることになるのが、それらの断絶である。主な断絶は4つの分野に見られる。として、地震の群発のように社会を激震が襲い始めた。
その原因は地殻変動としての断絶にある。この断絶の時代は「企業家の時代」「グローバル化の時代」「多元化の時代」「知識の時代」である。

(「 」は筆者が追記)

今回のコロナ禍が、ドラッカーの書いていた転換点の最後の年、2020年に起こったことは衝撃的です。ドラッカーのあげた4つの断絶のうち、企業(特に人事、管理部門)に働く方々にとって重要なのは「知識の時代」の到来です。知識労働者(ナレッジワーカー)が活躍する組織社会(=知識社会)の到来です。先にあげた『ポスト資本社会』とほぼ同時期にハーバードビジネスレビューに投稿した論文*には、こうあります。
*“THE NEW SOCIETY of ORGANIZATOIN” HBR September-October 1992
邦訳は、「知識主導社会の現実」ダイヤモンドハーバードビジネス1993年3月号

新しい社会では、個人にとっても、経済全体にとっても、知識が中心的な資源となる。経済学のいう生産要素、土地、労働、資本が不要になるわけではないが、それらは二義的な要素となる。知識さえあれば、それらは簡単に手に入れることができるのだ。とはいえ、個々の知識は単独では不毛である。仕事と結びつけられて、初めて生産的となる。
知識社会が組織社会となるのは、このためである。会社であれ、他のいかなる組織であれ、その目的と機能は、知識を共同の課題に向けて統合することにある。


知識は、個人に属するがために移動が可能です。組織にとっては、優秀な個人を組織内でいかに貢献してもらい続けるかを考えなければなりません。卑近な例では、業績悪化に伴う早期希望退職を募ったところ優秀な社員からやめていった、と耳にします。
また、VUCAと言われるように変化の激しい時代にあって、知識はより高度になります。
つまり、知識は高度化するほどに専門化し、専門化するほどに単独では役立たなくなります。社内のコミュニケーションの本質的重要性がここにあります。個々の知識労働者の貢献をリレーしていかなければなりません。
 

人事(管理)部門の方々にとっての重要な役割

従来のように、採用し、新入社員教育をし、配属するだけでなく、社員をいかに惹きつけられるかといったインセンティブの問題、個々の専門知識をいかに組織で共有していくかといったコミュニケーションの問題、社員の強みを生かした組織づくりを進めるための人の配置と組織設計の問題があります。

人事(管理)部門の仕事は、直接、ものやサービスを生む、販売活動をする、研究開発をするといった目に見える業務ではありませんが、人事(管理)部門の力の差が、今まで以上に競争力の源泉になることは間違いないと確信します。

ドラッカースクールの、ジーン・リップマン‐ブルーメン名誉教授は、危機のマネジメントに関して、Crisis Is Too Valuable To Waste. と話されています。この危機の経験から、いかに学び、新しい行動様式を取り入れるかが知恵の出しどころです。
また、ドラッカーはよく’The real change is in attitude’ と言っていたそうです。これを、彼のほとんどの著作を翻訳し出版してきた上田惇生先生は「真の変化とは、意識の変化である」と訳されました。
つまり意識が変化しない限り、変化を起こす行動は起こせないということです。言い換えるならば、誰かに言われたとおりに行動しているだけでは、(意識が伴わないため)変化は起こせないのです。
さも見てきたように将来像を語る人、ある一つの原理によってすべてを説明し扇動しようとする人を信じてはいけません。自分で、自分たちの組織で考えなければなりません。
今、足元で何が変化しているのか?ドラッカー流に言えば「すでに起こった未来」を見つけることです。

これまで、人事(管理)部門の方々に向けて、何らかのヒントや応援になれば、という思いでコラムを書いてきました。直接役に立つような「即効薬」はなかったかもしれません。しかし、何かしらの行動を起こす上で、参考になったり、または違った視点から考えるヒントになったりすることがありましたら、筆者としてはとても嬉しいことです。
人事担当者の皆さんと交流会などができないか?と考えていましたが実現できぬままになってしまいました。
また何かの機会でお会いしてお話できればと思っています。お付き合いありがとうございました。
 

Topics:知りながら害をなすな(プロフェッショナルの倫理)

最後のトピックスも、ドラッカーの著書から引用します。ドラッカーは、マネジメントの父、マネジメントの発明者などといわれます。多くのビジネスパーソンが知ってはいるものの、その著書『マネジメント―課題、責任、実践』を最後まで読み通した人は少ないのではないでしょうか?
なにせ原書で800ページ、翻訳書では、1,300ページに上る大著なのです。『もしドラ』の主人公の川島みなみが読んだとされる『【エッセンシャル版】マネジメント 基本と原則』は、「もしドラブーム」もあってか、100万部以上が売れました。この版でも300ページあります。

この本は、ドラッカー自身が、新たに設立したドラッカースクール(経営大学院)で教えるために書いた本です。当時は、大学院で使えるテキストがなかったため自分で書いたものです。20年程度の社会人経験のある方ならば原理・原則を改めて復習できますし、改めて組織のマネジメントに関して気づきが多くあるはずです。まとまった時間のある時に通読し、必要に応じて該当箇所を読み直す、という読み方をおすすめします。

『マネジメント』は全61章とまえがき、結論からなっています。まえがき、第28章、結論からピックアップして最後のトピックスとします。もし興味をお持ちになられましたら、ひるまず読破に向けて挑戦してみてください。仕事をする上での一生モノの財産を獲得できます。

1.まえがき…ここではこの本についての宣言が以下の通り示されています。
つまるところ、マネジメントは実践である。その本質は知ることではなく、行うことにある。その評価は、理論ではなく成果によって定まる。主役は成果である。したがって、本書は基本を扱っているものの、哲学の書ではない。実践から生まれた実践の書である。

2.第28章…プロフェッショナルの倫理―「知りながら害をなすな」です。
プロフェッショナルにとっての最大の責任は、2500年前のギリシャの名医ヒポクラテスの誓いの中にはっきり明示されている。「知りながら害をなすな」である。
医師、弁護士、マネジャーのいずれであろうと、顧客に対して、必ず良い結果をもたらすと約束することはできない。最善を尽くすことしかできない。しかし、知りながら害をなすことはしないとの約束はしなければならない。顧客となるものが、プロたるものは知りながら害をなすことはないと信じられなければならない。これを信じられなければ何も信じられない。

それでいながら、プロたるものは自立性を持たなければならない。顧客によって支配、監督、指揮されてはならない。自らの知識と判断が自らの決定となって表れるという意味においては、私的な存在でなければならない。
しかし同時に、自らの私的な利害によってではなく、公的な利害によって動くことこそ、彼らに与えられた自立性の基礎であり、根拠である。(中略)
したがって、「知りながら害をなすな」こそ、プロとしての倫理であり、社会的責任の基本である。


3.結論―マネジメントの正統性
社会においてリーダー的な階層にあるということは、本来の機能を果たすだけではすまないということである。本来の成果をあげるだけでは不十分である。正統性が要求される。社会から正しいものとしてその存在を是認されなければならない。
正統性とは曖昧なコンセプトである。それを厳密に定義することはできない。しかしそれでもそれは決定的に重要である。正統でない権限は専横となる。
(中略)
自立的マネジメント、すなわち自らの組織に奉仕することによって、社会と地域に奉仕するというマネジメントの権限が認知されるには、組織なるものの本質に基盤を置く正統性が必要とされる。
そのような正統性の根拠は一つしかない。すなわち、人の強みを生産的にすることである。これが組織の目的である。したがって、マネジメント権限の基盤となる正統性である。
組織の基礎となる原理は「私的な悪徳は社会のためになる」*ではない。「個人の強みは社会のためになる」である。
これがマネジメントの正統性の根拠である。そしてマネジメントの権限の基盤となりうる理念的原理である。


*300年前、イギリスの評論家マンデヴィルが説教本『蜂の寓話』において使った言葉。それから1世紀後、資本主義の原理とされた。彼は、一途かつ貪欲な利益追求が見えざる手によって公益を推進するとした。経済的には彼の言葉の正しさは証明された。しかし、規範としては、彼の言葉が認められたことはなかった。

日々の仕事の中で、(特にマネジャーは)困難な場面での意思決定を迫られます。
意思決定とは判断です。いくつかの選択肢からの選択です。しかし、決定が正しいものと間違ったものからの選択であることは稀です。はるかに多いのは、一方が他方よりたぶん正しいだろうとさえいえない二つの行動からの選択です。決定には勇気が必要です。
マネジャーは好きなことをするために報酬を支払われているのではありません。なすべきことをなすために、成果をあげる意思決定をするために報酬を得ているのです。

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写真:左から:原書、ダイヤモンド社エターナル版3冊(上田惇生訳)、日経BP社4冊(有賀裕子訳)、ダイヤモンド社【エッセンシャル版】(上田惇生訳)
大庭純一

Jerry O. (大庭 純一)
1956年 北海道室蘭市生まれ、小樽商科大学卒業。静岡県掛川市在住。
ドラッカー学会会員。フリーランスで、P.F.ドラッカーの著作による読書会、勉強会を主催。
会社員として、国内大手製造業、外資系製造業、IT(ソフトウェア開発)業に勤務。
職種は、一貫して人事、総務、経理などの管理部門に携わる。社内全体を見通す視点、実働部隊を支える視点で、組織が成果をあげるための貢献を考えて行動をした。
・ISO9000s(品質)ISO14000s(環境)ISO27000s(情報セキュリティー)に関しては、構築、導入、運用、内部監査を担当。
・採用は新卒、キャリア、海外でのエンジニアのリクルートを担当。面接を重視する採用と入社後のフォローアップで、早期離職者を出さない職場環境を実現。
・グローバル化・ダイバーシティに関しては、海外エンジニアの現地からの直接採用、日本語教育をおこなう。日本人社員に対しては、英語教育を行う。
・社内教育では、語学教育のみならず社内コミュニケーションの活性化、ドラッカーを中心としたセルフマネジメント、組織マネジメント、事業マネジメントを指導。

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