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34. 働き方改革への取り組み(7)ワーク・エンゲージメントを考える

年が明けて、国会では「働き方改革」が議論されています。焦点はやはり長時間労働問題対策ですが、裁量労働の労働時間の解釈といった狭い点でのやり取りに終始してしまっているのが残念です。

働く現場では、メンタルヘルスの悪化が問題視されています。まさに、人事(労務)担当者の苦労が多いところです。メンタルヘルスの悪化が年々進んでいるのは確かですが、長時間労働だからメンタルヘルスが悪化すると短絡的に考えてしまうと、問題の本質を見逃してしまう可能性があります。そこで登場するのが「ワーク・エンゲージメント」という考え方です。
もちろん、労働時間が長く、十分な休憩時間や睡眠時間を確保できなければ、心身の不調を招きます。ですが、労働時間を短くすれば不調がなくなるかと言えば、一概には言えないという研究結果があります。メンタルヘルスを悪化させるのは、労働時間というより「仕事の負荷」だという考え方です。
実際、「たくさんの仕事を抱えている」「納期に迫られている」「ゴールが見えない」「思うような手順・ペースで進まない」となると、その重圧感からメンタルに変調が起きた経験をした方も多いでしょう。さらにそこに長時間労働が加わると重症化にいたるのです。

「ワーク・エンゲージメント」とは、従業員の心の健康度を示す概念のひとつで、仕事に対して「熱意」(仕事に誇りややりがいを感じている)、「没頭」(仕事に夢中になり集中して取り組んでいる)、「活力」(仕事に積極的に取り組んでいる)の三つが揃って充実している心理状態を指します。
これらの3要素が高い人は、やりがいを感じ、生き生きと輝いて仕事をしています。この指標を世界各国で比較した研究結果で、日本の労働者は圧倒的に低かったのです。日本ではいまだに、仕事=苦役ということなのでしょうか?これは、働く人だけでなく、企業や国全体にとって不幸なことです。単純に労働時間を減らすという発想で時間削減に成功しても、職場環境が改善されるとは限らないのです。
では、健康で充実した仕事をするためには、すなわちワーク・エンゲージメントを高めるためには、どうしたらよいのでしょうか?

カナダの心理学者バンデューラ(Bandura, Albert 1925- )の提唱した「自己効力感」(self-efficacy)という考え方が参考になります。
「人が何らかの課題に直面した際、こうすればうまくいくはずだという期待(結果期待)に対して、自分はそれが実行できるという期待(効力期待)や自信のこと」「動機づけに大きな影響を及ぼす要因の1つ」です。
この自己効力感は、子供の頃からの経験の積み重ねである部分もありますが、大人になってからも、自分で小さな目標を立ててそれが出来たら自分を褒め、少しずつ大きな目標へ挑戦することで高めることができると言われています。つまり自己啓発が可能なのです。さらに、会社の労働環境を改善していくことでより高まるのです。
 
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では、会社のトップ、管理職、人事部門のスタッフが取り組むべきことは何でしょうか?
一言で言うと「目配り・心配り」です。「あなたの仕事ぶりをしっかり見ているよ」という姿勢を示すことです。社員それぞれの強みにあった課題や仕事を割り振ることです。
この場合には、達成責任に相応する裁量権を与えます。しかしながら得意ではないことにも挑戦させる必要が出てきます。そういったときには、その課題・仕事の意味、目的、達成すべきゴールを示して、タイミングよくフォローすることです。

最近、出版された書籍に『ヤフーの1on1-部下を成長させるコミュニケーション』『シリコンバレー式 最強の育て方―人材マネジメントの新しい常識1on1ミーティング』などがあります。
1on1とは、上司と部下が一対一で行う仕事ぶりに関しての面談を言います。欧米の企業ではごく普通にやられています。最近では日本でも外資系企業を中心に導入されてきています。

20代のドラッカーが、当時、ドイツのフランクフルトの新聞記者だったころの様子を紹介します。(『プロフェッショナルの条件』「私の人生を変えた7つの経験」より p102-103)
当時50歳くらいだったその編集長は、大変な苦労をして私たち若いスタッフを訓練し、指導した。毎週末、私たちの一人ひとりと差し向かいで、一週間の仕事ぶりについて話し合った。加えて半年ごとに、土曜日の午後と日曜日を使って、半年間の仕事ぶりについて話し合った。
編集長はいつも、優れた仕事から取り上げた。次に、一生懸命やった仕事を取り上げた。その次に一生懸命やらなかった仕事を取り上げた。最後に、お粗末な仕事や失敗した仕事を痛烈に批判した。
この、一年に二度の話し合いの中で、いつも私たちは、最後の時間を使ってこれから半年間の仕事について話し合った。それは、「集中すべきことは何か」「改善すべきことは何か」「勉強すべきことは何か」だった。
実際には、毎週末の話し合いや、仕事ぶりを痛烈に批判することなどは、いまの状況では無理でしょうが、話し合うことと、その内容と順番はそのまま使えて部下の育成には強力な力を発揮するはずです。

このように部下のワーク・エンゲージメントを高めていくことで、仕事の生産性が向上し、社員の長時間労働から解放されていきます。もちろん会社もこれまで以上に成果が上がります。

Topics : フロー体験

心理学の分野でフロー(Flow)とは、人間がその時にしていることに、完全に浸り、精力的に集中している感覚に特徴づけられ、完全にのめり込んでいて、その過程が活発さにおいて成功しているような活動における、精神的な状態をいいます。
スポーツ選手が「ゾーンに入る」などという感覚と同じようなものです。
「ピークエクスペリエンス」「無我の境地」「忘我状態」なども同様です。夢中になって、時の経つのも、空腹も忘れて一つのことに集中した体験をしたことが誰にでもあるのではないでしょうか。

この概念は、ミハイ・チクセントミハイ(Mihaly Csikszentmihalyi, 1934年 - )というハンガリー出身のアメリカの心理学者が提唱しました。
フロー状態に入るには、(1)即時フィードバック、(2)コントロール感、(3)シャットアウト、(4)適切な難易度、(5)明確な目標が必要とされている ことが必要と言われています。

実際の仕事のシーンでも、「かろうじて手が届く挑戦(ストレッチターゲット)」「無理かもしれない、でも何とか」というように自らのコンフォート・ゾーンから抜け出す行動姿勢が成果をもたらすのです。
チクセントミハイ教授は、長いことシカゴ大学で教育研究をされてきましたが、年を取ると暖かなところに住みたいとのことで、現在はカリフォルニア州クレアモントのドラッカースクール*で教鞭をとっておられます。
*正式名称は、Peter F. Drucker and Masatoshi Ito Graduate School of Management と言います。イトーヨーカ堂の創設者(現名誉会長)伊藤雅俊氏の名前を冠しています。伊藤氏は、ドラッカーから直接教えを受けた経営者の一人です。

次回「第35回 働き方改革への取り組み(8)ワーカホリック社員への対処」は4月3日掲載の予定です。
大庭純一

Jerry O. (大庭 純一)
1956年 北海道室蘭市生まれ、小樽商科大学卒業。静岡県掛川市在住。
ドラッカー学会会員。フリーランスで、P.F.ドラッカーの著作による読書会、勉強会を主催。
会社員として、国内大手製造業、外資系製造業、IT(ソフトウェア開発)業に勤務。
職種は、一貫して人事、総務、経理などの管理部門に携わる。社内全体を見通す視点、実働部隊を支える視点で、組織が成果をあげるための貢献を考えて行動をした。
・ISO9000s(品質)ISO14000s(環境)ISO27000s(情報セキュリティー)に関しては、構築、導入、運用、内部監査を担当。
・採用は新卒、キャリア、海外でのエンジニアのリクルートを担当。面接を重視する採用と入社後のフォローアップで、早期離職者を出さない職場環境を実現。
・グローバル化・ダイバーシティに関しては、海外エンジニアの現地からの直接採用、日本語教育をおこなう。日本人社員に対しては、英語教育を行う。
・社内教育では、語学教育のみならず社内コミュニケーションの活性化、ドラッカーを中心としたセルフマネジメント、組織マネジメント、事業マネジメントを指導。

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